人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの(松尾 豊 著)

投稿者: | 2017-07-18


人工知能は人間を超えるか (角川EPUB選書)

人工知能(AI)研究の第一人者・東大 松尾先生がAIの過去・現在・未来を語った一冊。

AIは過剰なまでに期待感もしくは危機感を煽るかディープラーニングなどの学習技術に比重を置いた本が多いなかで非常に冷静かつ正確にAIを捉えておりビジネスパーソンはこの一冊さえ読んでいれば十分だと思います。

例えば、第三次AIブームと呼べる現状についても

  • ディープラーニングで自ら特徴表現を獲得できるようになったことは大きな飛躍の可能性があり、宝くじでいうと「大当たりしたら5億円手に入るかもしれない」という状況
  • としつつも

  • 冷静にみると「学習」と言われる技術も決められた範囲で適切な値を見つけ出すだけで例外に弱く、汎用性が低い。将棋や掃除といった特定の領域で人間より上手く処理できる場合があるというだけで人工知能が人間を支配するなど笑い話に過ぎない。要するに宝くじでいうと「10枚買った時に平均的に受け取れる金額(=現状の期待値)は300円に過ぎない」ということ

と非常に冷静な見方をされています(本書P.7より)。その上で

宝くじを買っただけで1等が当たる気になってしまうのは、人間であればしかたがない。でも、1等が当たることは、実際にはめったにない。
人工知能は、急速に発展するかもしれないが、そうならないかもしれない。少なくとも、いまの人工知能は、実力より期待感のほうがはるかに大きくなっている。
読者のみなさんには、それを正しく理解してもらいたい。その上で、人工知能の未来に賭けてほしいのだ。人工知能技術の発展を応援してほしい。現在の人工知能は、この「大きな飛躍の可能性」に賭けてもいいような段階だ。買う価値のある宝くじだと思う。(本書P.8より)

と、これからの人工知能を応援したくなるようなメッセージが続いています。個人的にはAI冬の時代[1]私が学生の頃はまさに第2次AIブーム後の冬の時代で就職を考える学生にとってAIの研究はまったく魅力的ではなかったと思います。を経てようやくブーム再来となるとつい浮かれてしまいそうと思いますが、とても謙虚かつ良い意味で楽観的なのは冬の時代を耐え忍んだ経験があるからこそなのかもしれませんね。

序章は人工知能の普及・事例の紹介になっており第1章〜第3章は人工知能の「過去」、つまり第1次、第2次AIブームとその衰退がまとめられています。

第4〜5章は人工知能の「現在」、ビッグデータ時代における機械学習とディープラーニングによるブレイクスルーについて書かれています。本書は全体的にとても冷静な語り口でまとめられているのですが、ディープラーニングについては熱い想いが抑えきれないのかとても気合いの入った説明になっており必読です。なお、本書で説明されている「自己符号化器による初期化」はあまり利用されなくなっていますが、多層ニューラルネットワークの学習手法(=手段)が変わっただけで本書で説明されているディープラーニング実現の肝にあたる部分は今なお変わっていないと思います。

第6章〜終章は人工知能の「未来」について語られています。読んでいて確かにそうだよなぁと思ったのが、今までは人間が特徴量を設計していたのでその結果を人間が解釈できたのですが、特徴量の設計自体を機械的にできるようになったのでコンピュータが自ら学習して獲得した概念は人間が持っていた概念とは違うケースも多いにあり得るということです。本書ではネコの認識を例に

人間がネコを認識するときに「目や耳の形」「ひげ」「全体の形状」「鳴き声」「毛の模様」「肉球のやわらかさ」などを「特徴量」としてつかっていても、コンピュータはまったく別の「特徴量」からネコという概念をつかまえるかもしれない。(中略)そもそも、センサー(入力)のレベルで違っていたら、同じ「特徴量」になるはずがない。人間には見えない赤外線、小さすぎて見えない物体、動きが速すぎて見えない物体、人間には聞こえない高音や低音、イヌにしか嗅ぎ分けられない匂い、そうした情報もコンピュータが取り込んだとしたら、そこから出てくるものは、人間の知らない世界だろう。(本書P.192)

入力データ、特徴量が違えば自ずと概念の定義が異なるはずで、人工知能と人間が「意思疎通」をはかるためには人工知能の概念を人間が理解できる形で再定義する必要がありそうです。今後はそういった研究も並行して発展しないと人間と人工知能の「すれ違い」が大きくなってしまうかもしれませんね。その意味でも本書は人工知能の今を知り、そしてこれからの人工知能との向き合い方を考える良いきっかけになった一冊でした。


人工知能は人間を超えるか (角川EPUB選書)

脚注

脚注
1 私が学生の頃はまさに第2次AIブーム後の冬の時代で就職を考える学生にとってAIの研究はまったく魅力的ではなかったと思います。

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