概要
アメリカのトップトレーダー(=マーケットの魔術師)たちが語る成功の秘訣を書き、話題となった『Market Wizards』の翻訳書。
トレードは、経済活動における最終・最大の未開拓分野であるとともに、個人が少ない資金を元手に億万長者になれる数少ないチャンスの1つである。もちろん、最終的にはひと握りの個人だけがこの離れ業に成功するのだが、そのチャンスを身近なものにするための方法や、トレーディングで自己の限界を超えたいと悩んでいる人たちに、解答なりヒントを与えてくれるのが本書である。
本書では、トレーダーである著者自身が、アメリカのトップトレーダー16人とトレーダーの研究を続けている心理学者1人に行ったインタビュー記事がつづられている。登場するのはリチャード・デニス、トム・ボールドウィン、マイケル・マーカス、ブルース・コフナー、ウィリアム・オニールなどだ。インタビューの内容は、「成功のカギとなる要素は何か」「相場に対するアプローチ法」「トレード・ルールは何か」「初期のトレードの経験」「他のトレーダーに対するアドバイス」など。彼らのほとんどが、失敗を糧に苦難の時期を乗り越え成功への道のりをたどっていったことがわかる。本書は、トレードの成功には王道はないが、トレードの方法論における態度や原理については共通性があることと、誰でも適切な訓練を受けて努力を重ねれば成功トレーダーになれることを教えてくれる。
本書は、トレーダー向けの示唆に富む本である。しかし、「何度か無一文になった後、3万ドルからトレードを始め10年後に、8000万ドルにしたトレーダー」「小資本でスタートし、世界で最も偉大な債券トレーダーの1人になったアメリカ田舎町出身のトレーダー」といった成功体験物語は、トレーダー以外の読者でも十分楽しめそうだ。(増渕正明)
感想
伝説的トレーダーにインタビュー形式でその秘訣に迫った書。勝ち負けが半々として1000人いれば10連勝する人は1人くらいいるものなのでそういう「ほぼ必然的に生まれるラッキーな人達」かと思っていたが、登場する驚くほど成功したトレーダーほとんどが少なくとも一度は手痛い失敗をし、その教訓を糧にリスクマネジメントしていることが成功の一つの要因だということがよく分かる。投資先や投資スタイル(ファンダメンタル重視 or テクニカル重視)の違いは各人あれど自己規律性、リスクマネジメント、メンタルマネジメントについては驚くほど共通している。
運用額が文字通り桁違いであっても身銭を守り増やすことを考えるのであれば珠玉のアドバイスがちりばめられていると思う。
以下、各トレーダーのインタビューで印象に残った箇所。取引市場が先物メインなのでやはり先物と通貨の章が一番感銘を受けた。
先物と通貨
マイケル・マーカス
- 一つのトレード・アイデアに対しては常に資金の5%以下しか使わない
- 常にストップを使うこと
- ポジションに対して自信が持てなくなってどうしたらよいかわからなくなったらすぐに手仕舞うべき。いつだってポジションはとれる。迷ったら手仕舞うんだ。それでぐっすり寝るんだよ。
- 利が乗っているポジションはできるだけそのままにしておいて、やられているポジションは早く切る
- ブローカーの話を聞くことがどの方法よりも手っ取り早く損する方法。トレードは孤独なものだから、自分で勉強しろというのがアドバイスだ
- 他の株式と一株あたり利益(EPS)の伸び率を見ている。ただ、隙間市場でその市場が成熟状態になっているのであればあまり役にたたない。EPSの伸びが大きい会社で未成熟市場の場合は非常に魅力的。PERも見ている。
- トレードは情的なもの。群集心理や欲望であり、恐怖でもある。それはいつの場合も同じ。
ブルース・コスナー
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マイケル・マーカスから学んだこと。1つは「その気があれば自分でいくらでも稼げる」、もう1つは「定期的に間違いを繰り返すように心掛けなさい」。
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トレーダーとして成功するには2つの要素が必要。1つは今日とは全く異なった世界のことについて想像できる能力とそれが現実的にあり得ると考えられる能力。もう1つがプレッシャーの中にあっても常に理性を保ち平静を装える能力
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重要なファンダメンタルの変化が起こった時、最初の相場の反応が長期のトレンドの方向性を示唆する
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テクニカル分析で将来が予測できるというのは大袈裟。テクニカル分析は過去を振り返るものであって将来を占うものではない。テクニカル分析によって、過去にトレーダーがどのように行動してきたか、将来をどう見ていたのかを分析し、最後は自分自身の頭で相場についての判断を下すんだ。
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ポジションを持つ時にかならずストップを決めておく。ストップはテクニカル的に見たレジスタンスやサポートを超えたところに置く。ストップが決まるとポジションサイズも決まってくる。
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システムトレードを作るのは難しい。トレードや投資はゲームのルールが絶えず変化しているからだ。
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一回のトレードで自分のポートフォリオの1パーセント以上はリスクを冒さないようにしている。
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ポジションの相関性を毎日分析している。ポジションの相関が高い場合深刻なミスに繋がってしまうことがわかっている。
リチャード・デニス
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不安定になるような損を出したフロアを離れ、次のトレードの決断を下すまで少し時間をあける。何といっても損を最小に押さえて短期間で大儲けできる数少ないチャンスのために資金を留保するように努めるべきだ。
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トレードの秘訣は一貫性と自己規律。どんな悪い状況でも自信を持ってトレード・ルールに従ってやることだ。
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個別株の動きはコモディティと比べランダムに近い。明らかにコモディティはトレンドを描き、株式は論争になるほどランダムな動きをする。ランダムな性質から脱して明らかなトレンドを形成するのに十分なファンダメンタル情報が個別銘柄には不足していると思う。
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初心者トレーダーは小さくトレードしなさい。なぜなら最初はそれ以上悪くなりえないほど出来が悪いからだ。自分のミスから勉強しなさい。
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トレーダーの犯す最悪のミスは大きな収益機会を逃すことだ。相場に対する硬直的な見方は大きなトレンドを見逃すことに通じやすいので気をつけなければならない。
ポール・チューダー・ジョーンズ
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ナンピンをしないこと。トレードがうまくいかない時は枚数を減らすこと。うまくいっている時には枚数を増やすこと。コントロールできないような局面ではトレードしないこと。重要な発表の前には多くの資金をリスクにさらさないようにしている。
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いくらでポジションを取ったかということにこだわりすぎないこと。唯一適切な問いはその日強気か、弱気なのかということだ。
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価格のストップだけでなく、時間のストップも使う。
ゲーリー・ビールフェルド
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一番重要なのは自己規律。二番目は忍耐。三番目は相場に入っていく勇気。四番目は潔く損を出せること(あるトレードで失敗しても適切に処置して次のトレードに臨めること。損をしたことで感情的になってはいけない。)。五番目が勝ちたいという強い願望だ。
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ポーカーの戦略と同様、しっくりこない時は手仕舞って小さな損で逃げるんだ。一方、勝算が高い時には本当にレバレッジを効かせてトレードすべきだ。
エド・スィコータ
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トレードを構成するのは1.長期トレンド、2.現在のチャートパターン、3.最良の売買ポイントを捕まえることだ。
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最良のポイントを捕まえるというのは底や天井をつかむということではなく、相場の方向性がそこに来ればはっきり強いと認識できるようなところにポイントを置く。
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良いトレードの要素とは1に損切り、2に損切り、そして3に損切りだ。この3法則に従うなら誰にでもチャンスは巡ってくる。
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個々のトレードでは5%以下にリスクを押えている。
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トレードルールは
- 損切りは早く
- 利喰いはじっくり
- ポジションは小さく
- 躊躇なくルールに従う
- ルールを変えるべき時を知る。
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株式市場は他の市場とは違う動きをするし、簡単に認識できるパターンを滅多に繰り返さないという意味で株式市場は株式市場と違う動きをする。
ラリー・ハイト
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人生で賭けをしなければ悪いことは何も起こらない。しかし、賭けなければ勝つこともない。そして全てのチップがなくなればもう賭けることもできない。
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最悪の結果さえ知っていれば自由気ままにやっていける。
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どのトレードにおいても総資産の1%以上のリスクはとらない
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トレンドを追いかける
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リスクを分散する。複数の市場、複数のシステムを使う。
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ボラティリティが高いと期待リターン/リスク比が悪くなるのでその市場での取引は中止する。
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ボラティリティを計算する期間は10〜100日ぐらい。
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買われ過ぎ/売られ過ぎ指標は過大評価されている。
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重要なニュースに相場が反応しない時、相場が史上最高値をつけた時というのは重要な指標と考えている。
株式トレーダー
ウィリアム・オニール
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低位株を買えとか低PERを買えというような理論はあまり正しくなかった
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最高のパフォーマンスを上げるには、安値近辺で買うのではなく、幅広い銘柄を直近の高値をつけたところで買う方が良いということだ。
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暴騰の前の共通点を探った。頭文字をとってCANSLIMと呼んでいる。
- Cは今四半期の一株あたり利益(current earnings per share)が前年同期と比べて少なくとも20〜50%増えているか。
- Aは当期の一株あたり利益(anual earnings per share)。過去5年間の利益の伸び率が20%程度増えているか。毎年、前年を上回っていれば理想的。
- Nは何か新しいもの(something new)を出しているか。新製品、新サービス、新しい経営など。新高値も含む。
- Sは発行済株式数(shares outstanding)。少ないと暴騰しやすい。
- Lは先導株と出遅れ株(leader and laggarol)を表す。Relative strengthが80以上の銘柄(他の80%の銘柄をoutperform)しか買わない。ただし、急落に対する予防として底値より既に10%以上高くなる銘柄は買わないようにしている。
- Iは機関投資家比率(institutional sponsorship)高すぎると大きな売り手となりパフォーマンスを下げるので避ける。
- Mは市場(market)。市場そのものの動きと多くの銘柄と連動するので大きな動きを見誤らないようにする。見極めかたとしては「新高値をつけるが出来高が伴わない」「出来高が急増しているが引値で上がらない」。もう一つは先導株の動向。先導株が急落したら天井打った可能性が高い。騰落株線も役に立つことがある。新高値をつけても騰落株線がピークを抜けない場合、少数の銘柄に支えられていることを示しており急落の予兆である。
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高値まで待つというのは損をする可能性を小さくするということだ。ストップロスにおいている7%下まで下がることはほとんど無い。
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売りの最高のパターンは3〜4度の保ちあいを下抜けた場合。通常、安値をつけてリバウンドがある。box圏で買った投資家はトントンで投げたいと思っているのでそこで売り圧力が強くなる。このリバウンドが保ちあい圏まで戻しきれない時が絶好のタイミングだ。
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下がったら素早く損切らないといけない。間違った時に損を最小限に抑えるのがカギだ。1銘柄の損は7%までに抑えるというのがルールだ。進んで損切りができないなら株はやめた方が良い。ブレーキのない車を運転するのかね。
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塩梅よく動いている限りホールドすべきだ。次に天井では売れないことを悟ることだ。
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低PERだから割安というのはナンセンス。ダウの平均PERは15倍だったが、急騰株の上昇直前のPERは20倍だった。上昇の最終局面では45倍だった。高PERを売ることもナンセンスだ。
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配当とパフォーマンスには何の相関関係もない。
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分散投資は無知をヘッジするものだ。2、3の銘柄について何でも知っている方がよっぽど良い。
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株の出来高は需給の指標だ。新高値圏に突入する時は少なくとも直近数ヶ月の1日平均出来高を50%は上回るはずだ。
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投資家が犯す間違え(オニールの成長株発掘法より抜粋)
- 銘柄の選定基準がまずい
- 株価が下がっていく途中で買うこと
- ナンピン買いして平均コストを下げること
- 低位株を買うこと
- 10ドル以下で売買されている株は過去に問題を抱えていたか現在問題を抱えているかだ。ガラクタではなく最良の品物を買いなさい
- 配当や低PERにつられて二流株を買う
- よく知っている会社の株を買う。最良の投資となるのは多くの場合勉強し、調査して知る銘柄なのだ。
- 現物を持たずにオプションの売りを行う。ポテンシャリティが少ないのにリスクが高すぎる。
- 指値をしたがる。細かな値段にこだわるより大きな動きに目を向けるべきだ。
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株式市場は効率的でないしランダムでもない。効率的でないのはあやふやな意見があまりに多いからだ。ランダムでないのは投資家の強い情動によりトレンドが形成されるからだ。
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トレードの成功要因は3つ。銘柄の効率的な選択方法、リスク管理、自己規律。
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底値から数%の株を買うべき。そうでないとリスクが大きい。
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読むべき本は「オニールの成長株発掘法」「私は株で200万ドル儲けた」「欲望と幻想の市場」「ツバイクウォール街を行く」「ウェンスタインのテクニカル分析入門」
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株を買ったらいつもその理由を書いておく。
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Relative strengthが重要だ。最低でも80。できれば90以上。トレンドも重要で一度下げ始めたら売ってしまう。
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EPSランクが高ければ高いほど良い。少なくとも80、できれば90ぐらい。実際買う株のほとんは99だ。
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高値掴みを避けるためにチャートを見ている。底値から見て買われ過ぎている銘柄は避けている。
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業種のRelative strengthも見ている。上位50業種に絞っている。
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発行済株式数も見る。少ない方がよい。多い会社は成熟しておりすでに株式分割も行っている。
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機関投資家が保有していることが望ましい。多すぎるのもよくないので1〜20%程度が望ましい。
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保有期間は大きく値上がりした銘柄で6ヶ月〜1年、それほどでもないものは3ヶ月。値下がりしたやつは2週間。
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買うタイミングは新高値をつけた時。出来高を見ればダマシなのか皆が注目をしているのかがわかる。新高値圏なのに出来高が10%程度しか増えないなら怪しいと思う。
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新高値をつけても前のゾーンに戻ったら50%売るというルールがある。
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株は買った翌日には利が乗ってなくてはいけない。そのトレードで儲かるかどうかの一番良い指標だ。
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売るタイミングは高値で保ちあい、下げ始めた時だ。目標値は設定しない。
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出来高の過去50日平均と当日比のランキングも利用している。急騰の条件が揃った銘柄を探すのに使っている。
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上昇してきた株が保ちあいにはいる時は出来高が細るはずだ。出来高が再度増加し始めると発射準備完了ということが多い。
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上放たれる際は出来高が増加した方がよいが保ちあいでは出来高が減少した方が良い。保ちあいで出来高が増えるのは多くの人がその株から逃げようとしているとみられるからだ。
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底値を確認するには値下がり幅が小さく出来高が増加することを確認したい。
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市場全体のPERの1〜2倍の銘柄を買いたい。
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下げ相場のサインとしてはダウと騰落株線の不一致だ。騰落株線はダウが高値をつける2、3ヶ月前に天井をつける傾向がある。
- 相場というのは私が思っているより上がるし、私が思っているより下がるものだ。なぜなら何が起こっているのかよく理解していない多くの人々が市場に参加しているからだ。