バーゼル問題(Basel problem)は平方数の逆数のすべての和
[math]
\displaystyle \sum_{n=1}^\infty \dfrac{1}{n^2}=\dfrac{1}{1^2}+\dfrac{1}{2^2}+\dfrac{1}{3^2}+\cdots
[/math]
はいくつになるか?という問題です。1644年にピエトロ・メンゴリによって提起され、1735年にオイラー[1]「バーゼル」はオイラーの故郷に由来しています。によって解決されるまで100年近く未解決だった難問です。
オイラーは[math]\frac{\sin x}{x}[/math]をマクローリン展開と無限積展開
[math]
\begin{eqnarray}
&&\dfrac{\sin x}{x} \\
&=&1-\dfrac{x^2}{3!}+\dfrac{x^5}{5!}+\cdots \\
&=& \left(1-\dfrac{x^2}{\pi^2}\right)\left(1-\dfrac{x^2}{4\pi^2}\right)\left(1-\dfrac{x^2}{9\pi^2}\right)\cdots
\end{eqnarray}
[/math]
で表現し[math]x^2[/math]の係数を比較することで
[math]
\displaystyle \sum_{n=1}^\infty \dfrac{1}{n^2}=\dfrac{\pi^2}{6}
[/math]
を導きました。小学生でも知っている「平方数」の逆数を足しあげると突如、円周率が登場するという驚きの結果です。
オイラーによる解決後もよりシンプルな証明が発表されており「高校数学の美しい物語」さんが「バーゼル問題の初等的な証明」で紹介しているように大学入試問題のテーマになることもあります。ただ「思ったより長く険しい証明になってしまいました。」とコメントされている通り高校生にとっては難度の高い証明だと思います。
ここでは2015年に発表された論文”A One-Sentence and Truly Elementary Proof of the Basel Problem“の内容をベースとした解法を紹介します。なお、論文では
- 高校数学では学ばない「積分の平均値の定理」を使う
- Remarks.1に飛躍[2]論文中では「増加関数の同士の積は増加関数になる」としていますが負の値を取る場合には成立しないことがあります。がある
ため論文のアイディアをもとに再構成しています。
証明のアウトライン
キーアイディアは[math]k \in \mathbb{N}[/math]に対して
[math]
I_k = \displaystyle \int_0^{\pi/2} x\cos(2kx) dx
[/math]
と定めると[math]k[/math]を偶奇で分けて
[math]
I_k = \begin{cases}
0 &(k=2,4,6,\dots) \\
-\frac{1}{2k^2} &(k=1,3,5,\dots)
\end{cases}
[/math]
と「奇数の平方数の逆数」と「三角関数」を結びつけることができます。ここから三角関数の性質を巧妙に使い「奇数の平方数の逆数の和」を求め、そこから「平方数の逆数の和」を求めます。
証明のアウトラインをまとめると以下になります。
- [math]I_k[/math]の算出
- [math]E_n=\int_0^{\pi/2}x/2dx+\sum_{k=1}^nI_k[/math]の算出
- コサインの和[math]f_n(x)=\frac{1}{2}+\sum_{k=1}^n\cos(2kx)[/math]の計算
- [math]\lim_{n\to\infty}E_n=0[/math]の証明
- 「奇数の平方数の逆数の和」から「平方数の逆数の和」を算出
[math]I_k[/math]の算出
まず[math]I_k[/math]を求めます。部分積分をして[math]\cos(k\pi)=(-1)^k[/math]と書けることに注意して
[math]
\begin{eqnarray}
I_k &=& \int_0^{\pi/2} x\cos(2kx) dx \\
&=& \dfrac{(-1)^k-1}{4k^2}
\end{eqnarray}
[/math]
となるので
[math]
I_k = \begin{cases}
0 &(k=2,4,6,\dots) \\
-\frac{1}{2k^2} &(k=1,3,5,\dots)
\end{cases}
[/math]
を得ます。
[math]E_n=\int_0^{\pi/2}x/2dx+\sum_{k=1}^nI_k[/math]の算出
ここで
[math]
f_n(x)=\frac{1}{2}+\sum_{k=1}^n\cos(2kx)
[/math]
とおき[math]E_n=\int_0^{\pi/2}xf_n(x)dx[/math]を計算します。
[math]
\begin{eqnarray}
E_n&=&\int_0^{\pi/2}xf_n(x)dx \\
&=& \int_0^{\pi/2}\dfrac{x}{2}dx+\sum_{k=1}^n I_k \\
&=& \dfrac{\pi^2}{16}+\sum_{k=1}^n I_k
\end{eqnarray}
[/math]
となります。[math]I_k[/math]は[math]k[/math]が奇数の時に値を持つので
[math]
\displaystyle E_{2n-1} = \dfrac{1}{2}\left(\dfrac{\pi^2}{8} – \sum_{k=1}^n\dfrac{1}{(2k-1)^2}\right)
[/math]
となることが分かります。これより[math]n\to\infty[/math]の時に[math]E_{2n-1}\to 0[/math]を示せれば「奇数の平方数の逆数の和」が[math]\dfrac{\pi^2}{8}[/math]になることがわかります。
コサインの和[math]f_n(x)=\frac{1}{2}+\sum_{k=1}^n\cos(2kx)[/math]の計算
[math]E_n[/math]の収束を示す前にコサインの和である[math]f_n(x)[/math]をよりシンプルな形に変形します。三角関数の加法定理から
[math]
2\sin\alpha\sin\beta = \sin(\alpha + \beta) – \sin(\alpha – \beta)
[/math]
なので
[math]
\begin{eqnarray}
2\cdot\dfrac{1}{2}\sin x &=& \sin x \\
2\sin 2x\sin x &=& \sin 3x- \sin x \\
2\sin 4x\sin x &=& \sin 5x- \sin 3x \\
&\vdots& \\
2\sin 2nx\sin x &=& \sin (2n+1)x\\
&& – \sin (2n-1)x
\end{eqnarray}
[/math]
となるので両辺を足し合わせて
[math]
\begin{eqnarray}
&& 2\sin x\left(\dfrac{1}{2} + \sum_{k=1}^n\cos(2kx)\right)\\
&=& \sin (2n+1)x
\end{eqnarray}
[/math]
となります。これより[math]f_n(x)=\frac{1}{2}+\sum_{k=1}^n\cos(2kx)[/math]は
[math]
f_n(x)=\dfrac{\sin (2n+1)x}{2\sin x}
[/math]
と書けます。
[math]\lim_{n\to\infty}E_n=0[/math]の証明
[math]\sin(2n+1)x=\frac{d}{dx}(-\frac{1}{2n+1}\cos(2n+1)x)[/math]とみて[math]E_n[/math]を部分積分して
[math]
\begin{eqnarray}
&& E_n \\
&=& \int_0^{\pi/2}xf_n(x)dx \\
&=& \dfrac{1}{2}\int_0^{\pi/2} \dfrac{x}{\sin x}\cdot \sin(2n+1)x dx \\
&=& \dfrac{1}{2(2n+1)}\times \\
&&\left(C_1 + \int_0^{\pi/2}g(x)\cos(2n+1)x dx\right)
\end{eqnarray}
[/math]
となります。ここで[math]C_1[/math]は定数、[math]g(x)=\dfrac{d}{dx}\left(\dfrac{x}{\sin x}\right)[/math]です。
ここで[math]0 \leq x \leq \frac{\pi}{2}[/math]では[math]x\leq \tan x[/math]より
[math]
\begin{eqnarray}
g(x)&=&\dfrac{d}{dx}\left(\dfrac{x}{\sin x}\right) \\
&=&\dfrac{\sin x – x\cos x}{\sin^2 x} \\
&=&\dfrac{1 – x / \tan x}{\sin x} \\
&\geq& 0
\end{eqnarray}
[/math]
なので
[math]
\begin{eqnarray}
&&\left| \int_0^{\pi/2}g(x)\cos(2n+1)x dx \right| \\
&\leq& \int_0^{\pi/2}|g(x)| |\cos(2n+1)x | dx \\
&\leq& \int_0^{\pi/2}g(x) dx \\
&=&\left[\dfrac{x}{\sin x}\right]_{0}^{\pi/2} \\
&=& \pi/2 – 1
\end{eqnarray}
[/math]
と定数で押さえられるので
[math]
|E_n| \leq \dfrac{C}{2(2n+1)}
[/math]
と評価でき([math]C[/math]は定数)、[math]n\to\infty[/math]で[math]E_n\to 0[/math]が分かります。
「奇数の平方数の逆数の和」から「平方数の逆数の和」を算出
[math]E_n\to 0[/math]から「奇数の平方数の逆数の和」が
[math]
\displaystyle \sum_{n=1}^\infty \dfrac{1}{(2n-1)^2} = \dfrac{\pi^2}{8}
[/math]
になることが分かりました。「平方数の逆数の和」を「偶数の平方数の逆数の和」と「奇数の平方数の逆数の和」に分けて書くと
[math]
\begin{eqnarray}
B &=& \sum_{n=1}^\infty \dfrac{1}{n^2} \\
&=& \sum_{n=1}^\infty \dfrac{1}{(2n)^2} + \sum_{n=1}^\infty \dfrac{1}{(2n-1)^2} \\
&=& \dfrac{1}{4}\sum_{n=1}^\infty \dfrac{1}{n^2} + \sum_{n=1}^\infty \dfrac{1}{(2n-1)^2} \\
&=& \dfrac{B}{4} + \dfrac{\pi^2}{8}
\end{eqnarray}
[/math]
が成立します。これよりついに「平方数の逆数の和」が
[math]
\displaystyle \sum_{n=1}^\infty \dfrac{1}{n^2}=\dfrac{\pi^2}{6}
[/math]
と求まります。
参考文献
- 高校数学の美しい物語: バーゼル問題の初等的な証明
- Wikipedia: バーゼル問題
- ProofWiki: Basel Problem