解法1:定義に基づいて計算
定石「確率密度関数の定義域上での積分に帰着」
定義式に基づいて平均を導出することは数理統計を学ぶ上ではぜひ一度自分の手で確認しておくことが良いと思いますが、他の手法と比べると積分(or [math]\Sigma[/math])計算が煩雑になることが多く、試験では最後の手段として使うことが望ましいです。
計算時間の短縮の観点からは「〇〇分布に従う確率変数の平均は△△になる。」など証明なしで事実として使うべきですが
とその事実を証明させる問題もありえます。(過去にも二項分布の平均と分散を導出過程を含めて解答させる問題が出題されています。)この場合、定義に沿って計算することになりますが、計算量を減らす定石は「確率密度関数の定義域上での積分に帰着」させるです。
例えば上の問題では、
[math]
\begin{eqnarray}
&& E[X] \\
&=& \dfrac{1}{\Gamma(\alpha)\beta^\alpha}\displaystyle\int_{0}^{\infty}x\cdot x^{\alpha-1}\exp\left[-\frac{x}{\beta}\right]dx \\
&=& \dfrac{1}{\Gamma(\alpha)\beta^\alpha}\displaystyle\int_{0}^{\infty}x^{\alpha}\exp\left[-\frac{x}{\beta}\right]dx
\end{eqnarray}
[/math]
となり、被積分関数はガンマ分布[math]\Gamma(\alpha+1, \beta)[/math]の確率密度関数と一致します。ガンマ分布[math]\Gamma(\alpha+1, \beta)[/math]の定義域全体での積分は確率の累積なので当然1になり
[math]
\begin{eqnarray}
&& \dfrac{1}{\Gamma(\alpha+1)\beta^{\alpha+1}}\displaystyle\int_{0}^{\infty}x^{\alpha}\exp\left[-\frac{x}{\beta}\right]dx=1 \\
&\Leftrightarrow & \displaystyle\int_{0}^{\infty}x^{\alpha}\exp\left[-\frac{x}{\beta}\right]dx=\Gamma(\alpha+1)\beta^{\alpha+1}
\end{eqnarray}
[/math]
となります。これより
[math]
\begin{eqnarray}
&& E[X] \\
&=& \dfrac{1}{\Gamma(\alpha)\beta^\alpha}\displaystyle\int_{0}^{\infty}x^{\alpha}\exp\left[-\frac{x}{\beta}\right]dx\\
&=& \dfrac{1}{\Gamma(\alpha)\beta^\alpha}\cdot\Gamma(\alpha+1)\beta^{\alpha+1} \\
&=&\alpha\beta\quad (\because\Gamma(\alpha+1)=\alpha\Gamma(\alpha))
\end{eqnarray}
[/math]
が得られます。
一般に平均やモーメント[math]E[X^k][/math]の被積分関数は、同じ分布の異なるパラメータの分布(例:ガンマ分布、二項分布など)や、その分布を一般化した分布(例:正規分布に対するガンマ分布など)の確率密度関数が現れることが多いです。愚直に積分計算するよりも上の例のように現れた確率密度関数の定義域上での積分値が1になることを用いて計算することでより効率的に平均を算出可能です。
定石「奇関数の性質を利用」
計算量を減らすためのもう一つの定石は「奇関数の性質を利用」です。確率密度関数が対称(点[math]s[/math]が存在し任意の[math]x[/math]に対して[math]f(s+x)=f(s-x)[/math])になるケースで使える定石です。統計検定で出会う対称な分布は正規分布、t分布、コーシー分布くらいなので利用できるシーンは限られているのですが、使えると計算量を劇的に減らしてくれる便利な性質です。
- [math]k[/math]が奇数のとき、[math](x-s)^kf(x)[/math]は奇関数になる。
- 任意の[math]L>0[/math]に対して、[math]\displaystyle\int_{s-L}^{s+L}(x-s)^kf(x)dx=0[/math]
この性質を使って次の問題を解いてみます。
この問題では、正規分布の確率密度関数が[math]x=\mu[/math]で対称なことに着目して
[math]
\begin{eqnarray}
&& E[X] \\
&=&\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}x\cdot\dfrac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma}\exp\left[-\frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2}\right]dx \\
&=&\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}(x-\mu+\mu)\cdot\dfrac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma}\exp\left[-\frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2}\right]dx \\
&=&\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}(x-\mu)\cdot\dfrac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma}\exp\left[-\frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2}\right]dx \\
&& \quad +\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\mu\cdot\dfrac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma}\exp\left[-\frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2}\right]dx
\end{eqnarray}
[/math]
と変形すると第1項は上記性質から[math]0[/math]になり、第2項は正規分布の確率密度関数の積分を[math]\mu[/math]倍したものなので平均は[math]\mu[/math]になることがすぐに分かります。