【統計検定対策】モーメント母関数によるモーメント算出

投稿者: | 2017-07-29

確率変数[math]X[/math]の[math]n[/math]乗の平均値[math]E\left[X^n\right][/math]をモーメントと呼びます。本記事ではモーメント母関数を使ってモーメントを求める方法を紹介します。

確率変数の特性量(平均、分散など)をモーメント母関数から求める問題は統計検定1級でよく出題されています。2016年も理工学 大問4で出題されており修得必須のテーマと言えます。

なお、モーメント母関数の定義や求め方については「モーメント母関数」を参照ください。

モーメント母関数を使った平均、分散の求め方

分散[math]V[X]=E[X^2]-\left(E[X]\right)^2[/math]なので[math]1,\ 2[/math]次のモーメント[math]E[X],\ E[X^2][/math]を求めることで分散を求めることができます。

2016年の理工学 大問4を題材にモーメント母関数を使った平均、分散の出し方を見てみましょう。

パラメータ[math]\lambda[/math]に従うポアソン分布のモーメント母関数が[math]M_X(t)=\exp[\lambda(e^t-1)][/math]であることを用いて平均、分散を求めよ。

[math]E[X],\ E[X^2][/math]を求めるために[math]M_X(t)[/math]を[math]t[/math]で微分すると

[math]
\begin{eqnarray}
\dfrac{d}{dt}M_X(t)&=&\lambda e^t M_X(t) \\
\dfrac{d^2}{dt^2}M_X(t)&=&\lambda e^t M_X(t) + \lambda^2 e^{2t}M_X(t)
\end{eqnarray}
[/math]

になります。[math]M_X(0)=1[/math]なので

[math]
\begin{eqnarray}
E[X] &=& \dfrac{d}{dt}M_X(0)=\lambda \\
E[X^2]&=&\dfrac{d^2}{dt^2}M_X(0)=\lambda + \lambda^2
\end{eqnarray}
[/math]

となり、これより[math]E[X]=\lambda[/math], [math]V[X]=E\left[X^2\right]-\left(E[X]\right)^2=\lambda[/math]が得られます。

モーメント母関数のTaylor展開とモーメントの関係

[math]E[X],\ E[X^2][/math]だけなら愚直に微分して導関数を求めることで微分係数を求められますが、一般の[math]E[X^n][/math]を求める場合は[math]n[/math]次導関数を求める必要があり一筋縄ではいきません。

モーメント[math]E[X^n][/math]を求めるにはモーメント母関数の[math]n[/math]次導関数そのものではなく、「モーメント母関数の[math]n[/math]次導関数の[math]t=0[/math]での値」さえわかれば良いので、モーメント母関数がTaylor展開できる場合には次の関係式を使って[math]n[/math]次導関数を求めることなくモーメントを求めることができます。

モーメント母関数の[math]t=0[/math]まわりのTaylor展開 [math]M_X(t)=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{c_k}{k!}t^k[/math]に対して[math]E[X^n]=c_n[/math]が成立する。

証明はTaylor展開の定義から[math]c_n[/math]はモーメント母関数[math]M_X(t)[/math]の[math]t=0[/math]における[math]n[/math]次微分係数なので[math]E[X^n][/math]と一致します。

この関係式を使って2015年統計数理 大問1の類題として「標準正規分布の[math]n[/math]次モーメント」を求めてみます。

[math]Z\sim \mathcal{N}(0,\ 1)[/math]のモーメント[math]E[Z^n][/math]を求めよ。

まず[math]Z[/math]のモーメント母関数は

[math]
\begin{eqnarray}
M_Z(t) &=& e^{\frac{t^2}{2}} \\
&=& \sum_{k=0}^{\infty} \dfrac{1}{k!}\left(\frac{t^2}{2}\right)^k \\
&=& \sum_{k=0}^{\infty} \dfrac{(2k)!}{2^k k!}\cdot \dfrac{t^{2k}}{(2k)!}
\end{eqnarray}
[/math]

とかけるので[math]n[/math]次微分係数[math]c_n(=E[Z^n])[/math]は

[math]
c_n = \begin{cases}
0 &(n=2k-1, k\in\mathbb{N}) \\
\dfrac{(2k)!}{2^k k!} &(n=2k, k\in\mathbb{N})
\end{cases}
[/math]

となります。

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