1.2. コルモゴロフの公理

投稿者: | 2017-01-05

確率は降水確率や当選確率など生活の中でも用いられ、中学数学でも出現頻度をもとにした確率を学びます。しかし、出現頻度をもとにしたアプローチでは可算無限個の事象の取り扱いが難しいためここではコルモゴロフの公理(Kolmogorov Axioms)として知られる公理的なアプローチで確率を定義[1]生活の中で感覚的に理解した気になる分、公理的アプローチの必要性を理解しづらいのも確率を勉強する際のハードルになっている気がします。します。

可算無限個の集合の取り扱いの難しさの一つに演算結果が閉じない[2]例えば閉集合[math]A_k=\left[\frac{1}{k+1},\frac{1}{k}\right][/math]の和集合[math]\bigcup_{k=1}^\infty A_k[/math]は[math](0,1][/math]となり閉集合になりません。ことがあります。そのままでは議論の見通しが立てにくいので補集合と和集合が閉じるような集合に限定して話を進めます。

[math]\sigma[/math]加法族

標本空間[math]S[/math]の部分集合族[math]\mathcal{B}[/math]が以下の性質を満たす時[math]\sigma[/math]加法族(sigma algebra)という。

  1. [math]\emptyset \in \mathcal{B}[/math]
  2. [math]A \in \mathcal{B}ならばA^c \in \mathcal{B}[/math]
  3. [math]A_1, A_2,\dots \in \mathcal{B}ならば\bigcup_{i=1}^\infty A_i \in \mathcal{B}[/math]

空集合を含むこと、補集合と可算無限個の集合の和集合について閉じる(=演算結果が同じ集合族に含まれる)という良い性質を持っているということを意味します。

なお、積集合についても[math]A_1, A_2,\dots \in \mathcal{B}[/math]ならば[math]A_1^c, A_2^c,\dots \in \mathcal{B}[/math]なのでド・モルガンの法則より[math]\bigcap_{i=1}^\infty A_i=\left(\bigcup_{i=1}^\infty A_i^c\right)^c\in \mathcal{B}[/math]となり閉じていることがわかります。

また、標本空間[math]S[/math]が有限集合の場合、べき集合が[math]\sigma[/math]加法族になることが確認できます。

コルモゴロフの公理

コルモゴロフは以下の性質を満たす[math]\sigma[/math]加法族上の関数を確率と定義しました。

[math]\sigma[/math]加法族[math]\mathcal{B}[/math]上の関数[math]P[/math]が以下の性質を満たすとき[math]P[/math]を確率関数という。

  1. [math]P(A)\geq 0[/math] for all [math]A\in\mathcal{B}[/math]
  2. [math]P(S)=1[/math]
  3. [math]A_1, A_2,\dots \in \mathcal{B}[/math]が互いに排反のとき、[math]P\left(\bigcup_{i=1}^\infty A_i\right)=\sum_{i=1}^\infty P(A_i)[/math]

コルモゴロフの公理では

  1. 各事象の値が0以上であること
  2. 標本空間全体の値が1であること
  3. 任意の可算無限個の事象に対し互いに排反な事象の和集合の値は各事象の値の和になる

という性質のみを要請しており具体的な関数については何も規定していません。この公理のみを起点に各種性質を導き出すのがコルモゴロフの公理的確率論です。なお、標本空間が有限集合の場合、出現頻度をもとにした確率は上記3性質を満たすことを示せるので出現頻度をもとにした確率論の拡張になっています。実際、以下の結果が知られています。

標本空間が有限、すなわち[math]S=\left\{s_1,s_2,\dots,s_n\right\}[/math]と書けるとする。[math]p_1,\dots,p_n[/math]を[math]p_i\geq 0,\ \sum_{i=1}^np_i=1[/math]を満たす数とする。[math]S[/math]の部分集合[math]A[/math]に対して関数[math]P[/math]を[math]P(A)=\displaystyle\sum_{\left\{i\ |\ s_i\in A\right\}}p_i[/math]で定めると[math]P[/math]は確率関数になる。

部分集合族(べき集合)が[math]\sigma[/math]加法族になること、関数[math]P[/math]がコルモゴロフの公理1〜3を満たすことがその作り方から示せます。つまり各結果に[math]p_i[/math]を割り当て、結果の集合の値を各結果の値の和で定義することで確率関数を構成することができます。例えば[math]p_i[/math]を「全体の場合の数に対する結果[math]s_i[/math]の場合の数の割合」と定義することで確率となっていることがわかります。

シリーズ記事

参考文献

脚注

脚注
1 生活の中で感覚的に理解した気になる分、公理的アプローチの必要性を理解しづらいのも確率を勉強する際のハードルになっている気がします。
2 例えば閉集合[math]A_k=\left[\frac{1}{k+1},\frac{1}{k}\right][/math]の和集合[math]\bigcup_{k=1}^\infty A_k[/math]は[math](0,1][/math]となり閉集合になりません。

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