教科書に選んだ理由
統計を勉強し直す際に使った教科書が「Statistical Inference」(Casella, G and Berger, R.L.著)です。
この本にたどり着く前にもいくつか入門書は手に取ったのですが
- 「正規分布に従う確率変数の二乗は自由度1の[math]\chi^2[/math]分布に従う」など事実のみ書かれており、証明が載っていない
- 「詳細な説明は上級の教科書に譲りたい」など細かな内容が書かれていない
ことが多くきちんと理解した気になれない箇所がどうしても残ってしまっていました。今回、勉強する際に別の書籍を都度探すのは大変なのでその本の中で説明、証明が完結しているかどうかを特に重視しました。他にも
- 概念定義から各種性質、定理をきちんと説明&証明している
- 中級~上級の入り口レベルのトピックスを網羅している
- 海外でメジャーな教科書として定評がある
といった点も踏まえこの本を選びました。
構成
タイトルに「Statistical Inference」(統計的推論)とつけるだけあって、数理統計の基礎(確率論、確率分布)から推定、仮説検定を一通り網羅する内容となっています。(カッコ書きは私の拙訳)
- Probability Theory(確率論)
- Transformations and Expectations(変数変換と期待値)
- Common Families of Distributions(確率分布)
- Multiple Random Variables(多次元の確率変数)
- Properties of a Random Sample(無作為標本の性質)
- Principle of Data Reduction(データ集約の原理)
- Point Estimation(点推定)
- Hypothesis Testing(仮説検定)
- Interval Estimation(区間推定)
- Asymptotic Evaluations(漸近評価)
- Analysis of Variance and Regression(分散分析と回帰)
- Regression Models(回帰モデル)
良かった点
期待通りの内容で
- ただ定義を示すだけでなく「なぜその概念が必要になるのか」を背景を含めて解説
- 各定理のほぼすべてを証明付きで解説
- 基本的な原理、性質から出発し諸性質、特徴を導出しており体系的に理解しやすい
- 随所に例が入っており具体的なイメージや計算手順がつかみやすい
- 各章ごとに豊富な演習問題(概ね50~60題)が用意されている
- 平易な英語で書かれておりnon-nativeでも読みやすい
でした。特に基本となる2~5章は何度も読み返しました。今まで点でしか理解していなかった事項を体系的に理解できたのは本書のおかげだと思います。
注意が必要な点
ちゃんと統計を学ぶ人向けには良書だと思いますが、読んでいて感じたいくつか注意が必要な点をまとめます。
- 大学初年度相当の微分積分学を理解していることが前提
- 証明の一部は演習問題になっておりすべての証明が解説されているわけではない
- 演習問題の解答がついていない
- 数理統計にフォーカスしており多変量解析については一部の回帰モデルに軽く触れている程度
- 検定は尤度比検定を中心に基本的な定理が解説されているが、よく使われる正規分布の平均の差の検定など具体的な検定方法はExampleとしていくつか出てくるのみで体系的に整理されているわけではない
まず1点目の前提知識については序文でも
The prerequisite is one year of calculus.(Some familiarity with matrix manipulation would be useful, but is not essential.)
とあり、極限、級数展開、収束、広義積分、多変数の偏微分、重積分に関しては理解している前提で書かれています。これは統計自体が応用数学なので仕方ないですね。
2, 3点目は解答のPDFがアップされておりあまり大きな問題ではないのですが、有志が作った解答なのか
- 一部の演習問題の解答は載っていない
- たまに解答が間違っている
とある程度自力で解ききれる実力が必要だと思います。(ポジティブに捉えれば教育的な配慮に富んでいると思います。)
4点目はこの本はあくまでも数理統計の教科書なので、その応用については別途勉強しましょう。
5点目は少し意外でしたが、尤度比検定が一様最強力検定となるケースをいくつか証明するスタイルを採っており、よく見かける正規分布に従う無作為標本の「分散が既知で等しい場合の平均の差の検定」や「等分散性の検定」など場合分けして、それぞれの検定方法をまとめるスタイルではないです。(ひょっとしたら日本独特の文化なのかもしれません)
統計検定の試験対策としては体系的にまとめておいた方が良いのでその観点では別の書籍で対策を立てた方が良いと思います。
入り口に立つまでのハードルは低くはないと思いますが、本気で統計を勉強したい人には良い教科書だと思います。