オペレーションズ・リサーチ:人工知能特集号, vol.52 no.01(2007/01)

投稿者: | 2016-12-16

概要

人工知能特集。編集がTACOSの飯田 弘之 氏、執筆者がTACOSの橋本 剛 氏、YSS&AYAの山下 宏 氏、GPS将棋の田中 哲郎 氏、IS将棋の岸本 章宏 氏、不完全情報ゲームの作田 誠 氏、ロボカップの野田 五十樹 氏と錚々たるメンバー。よくこのメンツの原稿を揃えられたなぁと思う。内容は

  • コンピュータ将棋(橋本 剛)
    • コンピュータ将棋の概説。出版時期がちょうどBonanzaの出現直後だということもあり、随所にBonanza登場前後の違いが描かれておりその衝撃の大きさが窺える。
  • コンピュータ囲碁(山下 宏)
    • 丁寧な解説とですます調の文体が相まってコンピュータ囲碁が初めての人でも読みやすい。最初に囲碁プログラムを作ったのがZobristって、あのZobrist hasingのZobristのことだろうか。知らなかった。Crazy Stoneなどモンテカルロ法プログラムが出始めたところで論文中も「19路盤ではまだ使い物にならないようである。」とあり、実際当時はそう思っていた。まさか、10年も経たずにイ・セドルに勝つプログラムができるとは夢にも思わなかった。アルゴリズム進化の凄まじさを改めて実感。
  • パズルの解法(田中 哲郎)
    • 代表的な穴埋めパズルであるNクイーン問題を例に解説。ちなみに原稿ではN=24まで解の個数がわかっているとあるが、2016年時点だとN=26まで解明されているようだ。他にも移動型パズルについて解説。
  • 完全情報ゲームとAND/OR木探索(岸本 章宏)
    • AND/OR木における主に証明数探索の解説。
  • 不完全情報ゲームの研究(作田 誠)
    • ブリッジ、ポーカー、麻雀に代表される不完全情報ゲームの解説。各ゲームの不完全度とそのアプローチが説明されており、引用文献も豊富でもし不完全情報ゲームをすることになったらこの記事をスタート地点にしたい。
  • ロボカップ(野田 五十樹)
    • マルチエージェントシステムの観点からロボカップの進化を概観しているが、それがサッカーの現代化と同じような軌跡を辿っているのが興味深い。「おわりに」に「本稿ではこの協調的ロボットを作る際に重要となるチームワークという概念の整理を試みた.」とあるが、AIが人と競合するのではなく強調するためにはこういった研究がますます必要になると思う。

あと、グラフマイニングに関する研究「木構造データから有効なパターンを抽出するためのグラフマイニングに関する研究(中原 孝信)」(学生論文賞の要約)も掲載されている。

グラフマイニングは仕事で使ったこともあるが、分析コンサルの立場からは

  • グラフで表現することで当然、柔軟性/表現力は上がる
  • その一方でグラフから意味のある情報、構造を抽出しようとすると計算が複雑になる
  • グラフを使わずに単純な方法(集計やトランザクションベースでのパターン抽出)でやった場合との差分がなかなか出しづらい。つまり、計算コストを払うことで得られるメリットがわかりづらい。

ため苦労することが多い(もちろん、化学構造式への適用など成功事例もあるが)。本稿ではクレジットカード会社とスーパーのPOS(実証実験レベルでも中々手にすることができないデータ。よく集めたなと思う。)を用いた分析に適用しているが仮にコンサルだとこの手法を使う必然性が明確でなく、ちょっと使いづらい(顧客説明に耐えられなさそう)なという印象。まぁ一つ一つ成功事例を積み上げていくしかないのだろう。

(2017/06/04追記)
ビッグデータの残酷な現実」という書籍でカップルの人間関係を分析する中で、人間関係の融合をグラフの埋め込みで評価する取組が紹介されている。融合が弱い若いカップルは融合が強いカップルより破局する確率が50%高いそうだ。

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