久保川先生による数理統計学の教科書です。概念の背景、定義、基本的な性質をはじめ、発展的な内容も基本的な性質を積み上げる形で説明されています。この一冊で数理統計学の重要な概念、定理を一から理解できる良書だと思います。
以前、統計学を勉強し直した時に色々と教科書を探したのですが
- 「正規分布に従う確率変数の二乗は自由度1の[math]\chi^2[/math]分布に従う」など事実のみ書かれており、証明が載っていない
- 「詳細な説明は上級の教科書に譲りたい」など細かな内容が書かれていない
など理解した気になれない箇所が残ってしまうので「Statistical Inference」を使ったのですが、今だったらこの本を使って勉強したと思います。
構成
タイトルにある通り「数理統計学」(1〜9章)を網羅しつつ最近のトピック(10〜12章)も含まれています。
- 1〜2章: 確率の基本
- 3〜4章: 確率分布
- 5章: 標本分布
- 6〜8章: 統計的推定、統計的仮説検定、統計的区間推定
- 9章: 回帰モデル
- 10〜12章: リスク最適化、計算統計学、確率過程
特に5章では標本分布の性質と[math]t[/math]分布、[math]F[/math]分布との関係が丁寧に解説されています。
良かった点
数理統計学の基本〜応用が体系的にまとめられており自習にも向いていると思います。
- ただ定義を示すだけでなく「なぜその概念が必要になるのか」を背景を含めて解説
- 各定理のほぼすべてを証明付きで解説
- 基本的な原理、性質から出発し諸性質、特徴を導出しており体系的に理解しやすい
- 随所に例が入っており具体的なイメージや計算手順がつかみやすい
- 章末の演習問題の略解がHPで公開されており自習しやすい
注意が必要な点
「Statistical Inference」同様にちゃんと統計を学ぶ人向けには良書だと思いますが、読んでいて感じたいくつか注意が必要な点をまとめます。
- 大学1〜2回生相当の微分積分学、線形代数を理解していることが前提
- 数学的な厳密さを重視しており理解を助けるための図解は少ない
1点目ですがこれは統計自体が応用数学なので仕方ないですね。本書を始める前か、本書と並行しながらの復習が理想です。
2点目は議論が数式を中心に展開されますが、数式を追うだけだと理解した「つもり」になりやすいです。考察対象の関係性を図示することで理解が進むこともあるのですが本書では読み手側で考える必要があります。
大学1〜2回生レベルの数学が必要になりますが、数理統計学の基礎から発展的な内容までを日本語で学ぶことができる良書だと思います。
丁寧なご紹介ありがとうございます.
“数理統計学”の初学者向けに様々な配慮がなされており,前書きにも言及されている通り初学者向けの良書だと思いました.
ただ本書では漸近理論あたりはやや記述や証明が省略されている気がしたので,
本格的な数理統計学の習得を目指すのであれば,確率論を学習してからの方が近道だと感じました.
個人的には,統計学との接続を意識した以下書籍がいいと思いました.
お時間ある時にぜひレビューや感想も聞かせていただきたいです!
・統計学への確率論,その先へ,清水泰隆
https://www.amazon.co.jp/%E7%B5%B1%E8%A8%88%E5%AD%A6%E3%81%B8%E3%81%AE%E7%A2%BA%E7%8E%87%E8%AB%96%E3%80%81%E3%81%9D%E3%81%AE%E5%85%88%E3%81%B8%E2%80%95%E3%82%BC%E3%83%AD%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%AE%E6%B8%AC%E5%BA%A6%E8%AB%96%E7%9A%84%E7%90%86%E8%A7%A3%E3%81%A8%E6%BC%B8%E8%BF%91%E7%90%86%E8%AB%96%E3%81%B8%E3%81%AE%E6%9E%B6%E3%81%91%E6%A9%8B-%E6%B8%85%E6%B0%B4-%E6%B3%B0%E9%9A%86/dp/4753601250
コメントありがとうございます!「統計学への確率論」についても手にとって見たいと思います。