【統計検定1級過去問】2019年(理工学)大問2 解答例

投稿者: | 2020-04-25

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統計的工程管理からの出題でした。伝統的な考え方で管理図を用いると

工程としては問題がないのに管理限界外の点が多発する

という課題に対して考察を行う内容になっています。他の大問と比べかなり易しいのですが、統計的工程管理に馴染みのない人には選択しづらかったと思います。

なお、名古屋工業大学 仁科先生の講演「統計的工程管理の再考」でこの問題が取り上げられており関心のある方は参照ください。

問題

ある部品の熱処理工程は特性Aを管理特性とし、[math]\bar{X}-R[/math]管理図(平均値[math]\bar{X}[/math]と範囲[math]R[/math]の2つの管理図)で管理されている。図1の[math]\bar{X}-R[/math]管理図に示すように群の大きさは4であり、群は熱処理バッチに対応する。

また図2は半導体ウェアのある製造工程におけるウェハ上に付着するパーティクル(微小なゴミ)の数を管理特性とした[math]C[/math]管理図である。管理図は中心線(Center Line)と管理限界線(Control Limit)から成る。管理図のCenter Line(CL)は、管理図に打点される統計量の平均値でありCLの上側にUCL(Upper Control Limit)、下側にLCL(Lower Control Limit)が設定され、

CL [math]\pm[/math] (管理図に打点される統計量の標準偏差) [math]\times 3[/math]

である。[math]\bar{X}-R[/math]管理図での上式における標準偏差は[math]R[/math]管理図によって安定していることを判断した群内変動より求める。標準偏差の3倍で管理限界を設定する方法を3シグマルールという。ただし、[math]R[/math]管理図はLCLが負になる場合は考えない。[math]\bar{X}-R[/math]管理図は正規分布を仮定して作成される。

また、[math]C[/math]管理図はポアソン分布を仮定して作成される。図2のCLは平均値[math]1.62[/math]であり、管理限界線は3シグマルールで計算している。ただし、[math]R[/math]管理図と同様にLCLが負になる場合は考えない。

図1の[math]\bar{X}[/math]管理図および図2の[math]C[/math]管理図ともに管理限界線を越えた点が多発している。この現象に関し以下の問いに答えよ。

(出典:統計検定HP「統計検定 1級の過去問題」。問題文を一部略記。)

問1

[math]R[/math]管理図から熱処理バッチ内(群内)変動は安定しているとみなされる。図1の[math]\bar{X}[/math]の管理図より処理バッチ内変動(標準偏差[math]\hat{\sigma}_W[/math])を推定せよ。

群の大きさは4なので管理図に打点される統計量Aの標準偏差は[math]\frac{\hat{\sigma}_W}{\sqrt{4}}[/math]とかける。図1より[math]UCL-\bar{\bar{X}}[/math]は[math]0.0361[/math]なので

[math]

\dfrac{\hat{\sigma}_W}{\sqrt{4}} \times 3 = 0.0361
[/math]

を解いて[math]\hat{\sigma}_W=0.0241[/math]である。

問2

[math]\bar{X}[/math]管理図は多数の点が管理限界線を外れている。図1の元データ[math]x_{ij}\ (i=1,\dots,25,\ j=1,2,3,4)[/math]の標準偏差[math]\hat{\sigma}_{\rm Total}[/math]が[math]0.0481[/math]であった時、熱処理バッチ間変動(群間変動[math]\hat{\sigma}_B[/math])を標準偏差で求めよ。

[math]\hat{\sigma}_{\rm Total}^2 = \hat{\sigma}_W^2 + \hat{\sigma}_B^2[/math]より

[math]
\begin{eqnarray}

\hat{\sigma}_B^2 &=& \hat{\sigma}_{\rm Total}^2 – \hat{\sigma}_W^2 \\
&=& 0.0481^2 – 0.0241^2 \\
&=& 0.001733
\end{eqnarray}
[/math]

より[math]
\hat{\sigma}_B=0.416[/math]である。

問3

問2のバッチ間変動の大部分は鋼材の変動であることが判明した。鋼材の変動は鋼材メーカーの問題であり熱処理工程の管理外である。鋼材ロットは処理バッチに対応している。熱処理担当のエンジニアは熱処理後の特性Aの現状のばらつきは通常のばらつきであり、規格に対しても何ら問題なく、現状を維持管理したいと判断した。3シグマルールによって管理する時、[math]\bar{X}-R[/math]管理図に対する対応策を考えよ。

偶然変動を群内変動のみとするのではなく、鋼材によるバッチ間変動も偶然変動とみなす。つまり、[math]\bar{X}[/math]管理図の管理限界線は全変動[math]\hat{\sigma}_{\rm Total}[/math]を用いて設定する。

問4

図2[math]C[/math]管理図は3シグマルールを用いている。[math]C[/math]管理図のUCLを求めよ。

ポアソン分布の平均を[math]\mu[/math]とした時、分散も[math]\mu[/math]なので


UCL [math]= \mu + 3\sqrt{\mu}=1.62+3\sqrt{1.62}=5.43[/math]

である。

問5

図2の[math]C[/math]管理図は管理限界外の点が多発している。問3と同様に担当のエンジニアはこの程度のばらつきは通常のばらつきであり問題ではなく、現状を維持管理したいと考えている。管理限界外の点が多発している図2の現象を説明し、[math]C[/math]管理図を活用するための対応策を考えよ。

ウェハ上のパーティクルの付着率が一定と仮定しポアソン分布を用いているが、図2の後半で付着数が増加していることから実際は付着率は変動していることが想定される。

つまり、付着率を一定として標準偏差を過少に見積もってしまい管理限界外の点が多発していることが想定される。そのため、付着率は一定ではなくガンマ分布などの確率分布に従うとして[math]C[/math]管理図を活用することが考えられる。

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