概要
選択肢は多ければ多いほどよい、そう考えているあなたは間違っています。実は人間はあまりに選択肢が多いと逆に「選択」ができなくなる。そのことを実験によって証明したのが、この本の著者コロンビア大学ビジネススクール教授のシーナ・アイエンガーです。24種類のジャムの売り場と、6種類のジャムの売り場では、前者は後者の10分の1の売り上げしかあがりませんでした。
「なぜ自分の選択に失望することが多いのか」「他人に選択を委ねたほうがよい場合は」「その場合は誰に委ねるべきか」「出身や生い立ちは、選択にどう影響を与えるか」等々。20年以上に渡る広範な実験と研究によって、あなたの「選択」に関する疑問に答えます。
感想
選択は本能である
- 2匹の犬に周期的に不快な刺激を与える
- 片方はパネルを押せばショックを止められるようになっているが、もう片方は止められないようになっている。ショックは同期化されており2匹ともショックの量は同じ
- コントロールできなかった犬は萎縮して、哀れっぽい挙動を取り実験後もその傾向が続いた
- 次に部屋に2つのエリアがあり片方のエリアでは不快なショックがあたえられるがもう片方に移動すれば回避できる。ショックをコントロールすることができた犬はすぐに回避方法を見つけたがコントロールできなかった犬はただじっと耐え続けた
- 一度コントロールができず無力さをしった犬はコントロールを取り戻しても取り戻せたことを認識できず無力なままになってしまった
「選択」と呼んでいるのは自分自身や自分の置かれた環境を自分の力で変える能力のこと。実際にコントロールできるかどうかもそうだが、コントロールできるという認識が大きな意味を持つ。
- 生後4ヶ月のあかちゃんに紐をもたせて引っ張れば音楽がなるようにした
- その後、紐をはずしてランダムに同じ長さの音楽を流したが
子供達は悲しげな顔をし、腹を立てた
子供達はただ音楽が聴きたいのではなく聴くかどうかを自ら選ぶ力を渇望した
動物園での飼育は本能を発揮できる機会が少なく自分の運命を自分の手で選ぶことができないことが多い。野生より生活条件が良いにもかかわらず、寿命を縮めることも多い。
イギリスの公務員の追跡調査
- 「モーレツ上司が心臓発作でぽっくり死ぬ」というイメージと逆の結果
- 職業階層の高さと仕事に対する自己決定権の度合いが直接的に相関があり健康リスクと関係性があった
人々の健康度のへの影響度は実際の自己決定権の大きさではなく、その認識にあった。
老人ホームでの実験
- 鉢植えの世話、映画鑑賞、読書、ラジオの自己選択権の認識を操作
- 「入居者にはある程度の自由が許されているが、彼らの健康は有能な職員が責任をもって管理する」 VS 「みなさんの人生ですよ。どんな人生にするかはみなさん次第です」
- メッセージは違ったが施設の職員は入居者をまったく同じように扱い、同じだけの世話をした
選択権があるという認識をした入居者群のほうが健康状態が改善し、死亡率が低かったことが判明
集団のためか、個人のためか
2つの自由の定義
- 「人間をそれまで抑えつけてきた政治的、経済的、精神的束縛からの自由」⇒「からの自由」
- 「何らかの成果を実現し、自分の潜在能力を十全に発揮する自由」⇒「する自由」
資本主義では「からの自由」が強調される。共産主義は最低限の生活水準を獲得「する自由」を保証する代わりに「からの自由」を制限。
旧ソ連の老人
「ソ連じゃ金があっても何も買えなかった。今じゃ何でも買えるが、金がない。」
東欧の若者
「昔は自分の代わりに誰かが全部決めてくれた。自分の人生について自分で選択しなくちゃいけないのは怖い」
人が自分の人生にどれだけの自己決定感を持っているかは環境に依存する。
マシュマロテスト
- 子供は部屋にあるお菓子を1つ選ぶ(マシュマロとする)
- 「今、マシュマロを1つあげるね。でもまだ食べちゃダメだよ。もし、おじさんが戻ってくるまで待てたらもう一つご褒美にあげるね。どうしても食べたくなったらベルを押してね。でも、そうしたらマシュマロは1つだからね」という
人には「自動システム」(無意識の作用)と「熟慮システム」(論理的に作用)があり2つのシステムが一致する場合には葛藤は生まれないが、一致しない場合そのせめぎ合いに苦しむ。マシュマロテストの実験では「熟慮システム」が優位で男性が帰ってくるまで我慢できた子はその後の追跡調査で困難な状況に適切に対処する力があり行動上の問題も少なかったことがわかった。成人後も喫煙率、違法薬物の経験率が低く社会的経済的地位も高かった。また、その後のテストで誘惑の対象から気をそらす方法を意識的に用いれば驚くほど「自動システム」を抑制できることがわかった。
幸せの問題点
プロコン・リスト
- 具体的で測定可能な基準の比較には良いが、感情面の考慮事項がないがしろにされやすい
- 就職活動を客観的に正しいと思われることをじっくり検討した学生の方が平均初任給は高かったが、正しい選択をしたという満足度は低かった
- ポスター選択の満足度、カップルの相手への満足度調査はじっくり考えた要因よりも直感的な要因のほうがその後の満足度への影響が大きかった
豊富な選択肢は必ずしも利益にならない
- 先行研究では一様に人は年齢にかかわらず選択する余地を与えられれば、満足度、意欲が高まるとされていた
- 子供を2群にわけ片方は自由におもちゃを選ばせて遊ばせ、もう片方は遊ぶおもちゃを指定し他のおもちゃで遊ぶことを禁じた
- 自由に選ばせた方が満足度が高いと思われたが結果は逆だった
- 人は選択肢が5〜9個くらいであればうまく順位付けをして選択できるがそれを超えるとうまく対処できなくなる
ジャムの試食会で24種類のジャムを展示したパターンと6種類のジャムを展示した場合を比較。24種類の方が1.5倍集客したが購入に至ったのは6種類の方が6倍以上も高かった。つまり、選択肢の多さは必ずしも売り上げ増加に繋がらない。